東京家庭裁判所 昭和43年(家)7588号 審判 1968年8月17日
申立人 猿橋博(仮名) 外一名
主文
申立人らの氏「猿橋」を「秋山」と変更することを許可する。
理由
申立人らは、主文同旨の審判を求め、その理由として、次のとおり主張する。
申立人らの氏「猿橋」は、ケモノの猿を連想させるところから、申立人博は幼時から友達などに「サル」と呼ばれ嘲笑侮べつを受けて来た。申立人らは、昭和三六年五月一五日婚姻したものであるが、その際、夫の氏「猿橋」にはしたくなくて妻の氏「秋山」を称する旨の届出をする考えであつたが、申立人博の老父の意向に抗しかねて、やむなく、夫の氏「猿橋」を称することにして届出をしたので、申立人博を筆頭者とし申立人育子をその配偶者として「猿橋」の氏による戸籍が編製されて現在に至つている。しかし、右父も既に死亡し、申立人ら夫婦の間に近く第一子が誕生する予定である。申立人博が幼時から受けて来た嘲笑侮べつを生れて来る子にまで味わわせて、成育の障害にしたくないと申立人らは切望し、生れて来る子とともに「猿橋」という氏によつて受ける不愉快な生活から開放されたいと望んでいる。 そこで、申立人らが婚姻に際し本来称するはずであつた「秋山」という氏に変更することの許可を求める、というのが申立人らの主張である。
一件記録および申立人ら本人の各審問結果に徴すれば、申立人らの主張する事実は、すべてそのとおり認められ、その事実関係によつて按ずるに、申立人らの主観的感情だけでなく、客観的に見ても、「猿橋」という氏を呼称することには、一般的に社会生活上申立人ら主張のような不利益が考えられなくはない。そして、申立人らがあらたに称したいという氏「秋山」は、申立人育子の婚姻前の氏であるから、氏をなるべく変動させないようにしようとする制度の趣旨から考えて、この際変更すべき氏として最も妥当なものということができる。
よつて、本件には戸籍法第一〇七条一項に定めるやむを得ない事由があると認め、主文のとおり審判する。
(家事審判官 安倍正三)